大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)445号 判決

被告人 瀬部淳一

〔抄 録〕

そこで記録に基いて検討を加えると、被告人が普通乗用自動車を運転し原判示日時ごろ最高速度を四〇キロメートル毎時と定めた原判示道路を進行中、交通取締の警察官に停車を命ぜられて停車したが、その際同所に設置されていた本件速度測定機により九五キロメートル毎時の測定速度が記録されたことが認められるところ、原判決は所論のとおり右測定機による測定値の証明力を疑い、司法巡査倉田栄作成の速度測定カード(JRCスピードメーター用)を証拠に採用せず、反って被告人の原審公判廷における「違反当時時速七〇キロか八〇キロはでていたと思う」旨の供述を採用し違反速度を七〇キロメートル毎時と認定しているのであるが、原判決が右速度測定の結果には合理的疑いがあるとして証拠に採用しなかった理由としては、七メートル間隔で設置された光電式検出器による検出点を進行方向より順次A点、B点とし、被告人車両が停車を命ぜられて停車した地点をC点とすると、B、C間の距離は一〇九・八メートルであり、被告人車両がB点を通過直後、C点附近に待機していた停止係である司法巡査国分和夫が被告人車両を停止させる地点に達するまでの所要時間は約二秒弱又は一秒を要する(一・九秒とすると、秒速二六・三九メートルの被告人車両はこの間五〇・一四一メートル進行する)から、時速九五キロメートルでA、B点を通過したとすればC点で通常の停車は勿論、急停車できたかどうか極めて疑わしいというのである(尚この点に関する原判決の推論は、所論指摘のとおり、停止係の停止に要する時間は別としても、被告人車両の制動距離の算出は原審における検証時に、被告人自身に本件車両を運転させて、急停車又は通常の停車をさせた実験値を基礎としたもので、被告人車両は右実験時にはタイヤをラジアルタイヤに変えていたこと、制動のかけ方、制動距離の長短に関して被告人自身が利害関係人であること等を考慮すればその数値がそのまま措信できるかどうかについては疑問である)。

ところで、司法巡査稲垣稔作成の捜査報告書(別添一、日本無線株式会社横浜工場品質管理課課長内柴長吉作成の車両走行速度測定装置精度確認書謄本、別添二、司法巡査稲垣稔作成の速度測定カード)、原審裁判所の昭和四九年九月一八日付及び前記内柴長吉作成の車両走行速度測定装置精度確認書謄本(二通)検証調書、当審における証人大友武志の供述によれば、

1 本件速度測定機は昭和四七年一〇月五日同四八年九月二〇日、同四九年五月一五日の三回にわたり横浜無線株式会社横浜工場においてテストをうけ、測定速度範囲二四~一一九キロメートル毎時において+0・-1キロメートル毎時の測定精度を有し、正常な機能及び動作を保持することが確認されていること

2 本件当日(昭和四八年一一月二六日)取締に先立って、現場に本件速度測定機を設置し、パトロールカーを走行させて、そのスピードメーターと検出結果とを対照し、正常に作動することを確認していること、

3 本件取締の対象となった車両は被告人車両の外五三件(五一乃至七四キロメートル毎時)あったが、測定の結果について異議をのべた者は被告人以外にはいなかったこと、

4 昭和四九年三月一三日相模原警察署が路上で同年九月一八日原審裁判所が検証現場において、いずれも自動車を走行させて本件速度測定機の精度をテストした結果、正常な機能及び動作を保持していることが確認されていること

が認められる。そもそも本件速度測定機による速度検出の過程は、人の供述の生成過程が知覚、記憶、構成、叙述から成立っているのと異り、人の関与は機械的操作にすぎず、その決定的な主要部分は光学的、電気学的原理による機械的過程であるから、右認定のごとく本件の前後におけるテストの結果、その精度が確認される場合には本件速度測定機による測定結果の証明力は極めて高度のものといわねばならないから、特段の事情(例えば速度測定記録書の記載の誤り、速度測定カードへの貼り違え等)がないのに右測定の結果を証拠に採用せず之に反する人の供述を証拠に採用することは明かに採証の原則に反するといわねばならない(尚原判決が右測定の結果に対し合理的な疑いがあるとした点については、当審における証人大友武志の供述によれば「予め、早いと思われる車がきますと、スイッチを入れる前に早いという一声が来るのです。そうすると、停止係が停止線で止める態勢に入るのが通常です。停止係は路上に出ても一歩位です。危いですからあまり出ません」というのであって、本件速度測定機は通行車両全部の速度を測定するものではなく、速度車両のみを対象とするものであるから、必要に応じて作動すべきものであり、被告人車両のごとき異常に早い速度で進行する車両については、A、Bの検出点の通過をまたずに直に停車させる態勢に入るべきことは当然のことであるから、原判決が、被告人車両が右検出点通過後停車を命ぜられて制動措置をとったことを前提とした推論はすべて適確な証拠に基かない独自の推論で失当という外はない)。とすれば、原判決は採証の原則を誤り、事実を誤認したものというべく、右誤認は判決に影響を及ぼすこと明かであるから破棄を免れない。論旨はこの限度において理由がある。

(矢部 石橋 佐々木)

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